漢詩と中国文化 |
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後赤壁賦:蘇軾を読む |
元豊五年の旧暦十月十五日の夜、蘇軾は再び赤壁を訪ねた。この時は、二人の客人と雪堂から臨皋亭に帰る途中、風雅な話をしているうちに、酒と肴を調達して、赤壁まで月見に出かけたのだった。 前作と異なるところは、この作品には道士が夢に出てくるなど、道教的な雰囲気が色濃く漂っていることである。 是歳十月之望 是の歳十月の望 歩自雪堂 雪堂より歩みて 將歸於臨皋 將に臨皋に歸らんとす 二客從予 二客予に從ひ 過黄泥之坂 黄泥の坂を過ぐ 霜露既降 霜露既に降り 木葉盡脱 木葉盡く脱し 人影在地 人影地に在り 仰見明月 仰ぎて明月を見る 顧而樂之 顧みて之を樂しみ 行歌相答 行歌して相ひ答ふ 同じ年の十月望月の日、雪堂より?みて、臨皋に帰ろうとしたときに、二客が自分と一緒に、?泥の坂をよぎった、霜露既に降り、木葉盡く?し、人影地に在り、名月を仰ぎ見た、そして互いに振り返っては、歌を歌って応えあったのだった 已而嘆曰 已にして嘆じて曰く 有客無酒 客有れども酒無し 有酒無肴 酒有れども肴無し 月白風清 月白く風清らかに 如此良夜何 此の良夜を如何せん 客曰 客曰く 今者薄暮 今は薄暮 舉網得魚 網を舉げて魚を得たり 巨口細鱗 巨口細鱗 状似松江之鱸 状松江の鱸に似たり 顧安所得酒乎 顧ふに安くの所にか酒を得んと ややして嘆いて曰く、客有れども酒無し、酒有れども肴無し、月は白く風は清らかだ、こんな良夜をどうして過ごそうか、客曰く、今は黄昏時、網を投げたら魚が捕れた、巨口細鱗、松江の鱸に似ている、どこかで酒を手に入れたいものだと 歸而謀諸婦 歸って諸婦に謀る 婦曰 婦曰く 我有鬥酒 我に鬥酒有り 藏之久矣 之を藏すること久し 以待子不時之需 以て子の不時の需めを待てりと 於是攜酒與魚 是において酒と魚とを攜へ 復遊於赤壁之下 復た於赤壁の下に遊ぶ 帰って女どもに訊いたら、一人の女が答えて曰く、我にト酒あり、長い間蔵しておりました、あなた様の不意の求めをお待ちしておりましたと、ここに至って酒と肴を携え、再び赤壁の下に遊んだ次第だ 江流有聲 江流聲有り 斷岸千尺 斷岸千尺 山高月小 山高くして月小さく 水落石出 水落ちて石出づ 曾日月之幾何 曾ち日月の幾何ぞや 而江山不可復識矣 而るに江山復た識るべからず 長江が音をたてて流れ、両岸の高さは千尺、山は高く月は小さく、水がほとばしって石が露出する、前回の訪問からいくらも経ってないのに、江山が見知らぬ景色のように見える 予乃攝衣而上 予乃ち衣を攝げて上る 履讒岩 讒岩を履み 披蒙茸 蒙茸を披き 踞虎豹 虎豹に踞し 登九龍 九龍に登り 攀棲鶻之危巣 棲鶻の危巣に攀じ 俯馮夷之幽宮 馮夷の幽宮に俯す 自分は衣をからげて上り、讒岩を履み、蒙茸を披き、?龍に登り、棲鶻の危?に攀じ、馮夷の幽宮に俯した 蓋二客不能從焉 蓋し二客は從ふこと能はず 劃然長嘯 劃然として長嘯すれば 草木震動 草木震動し 山鳴谷應 山鳴り谷應へ 風起水湧 風起り水湧く 予亦悄然而悲 予も亦悄然として悲しみ 肅然而恐 肅然として恐れ 凜乎其不可留也 凜乎として其れ留まるべからざるなり 反而登舟 反りて登舟に登り 放乎中流 中流に放ち 聽其所止而休焉 其の止まる所を聽きて休む ところが二客は従うこと能わず、口笛を長々と吹けば、草木震動し、山鳴り谷應え、風起り水は湧いた、自分もまた悄然として悲しみ、肅然として恐れ、体が冷えてこれ以上とどまることができなかった、そこで船に戻り、流れを進み、船の自然と止まったところで休んだ 時夜將半 時に夜將に半ばならんとし 四顧寂寥 四顧すれば寂寥たり 適有孤鶴 適たま孤鶴あり 江東來 江をぎりて東より來る 翅如車輪 翅は車輪の如く 玄裳縞衣 玄裳縞衣 戛然長鳴 戛然として長鳴し 掠予舟而西也 予の舟を掠めて西せり 時に深夜になろうとし、あたりを見れば皆寂寥、たまたま孤鶴が、長江を横切って東の方から飛んでくる、その翼は車輪の如く、玄裳縞衣、我が船をかすめて西の方へ飛んで行った。 須臾客去 須臾にして客去り 予亦就睡 予も亦睡りに就く 夢一道士 一道士を夢む 羽衣扁遷 羽衣扁遷として 過臨皋之下 臨皋の下を過ぎり 揖予而言曰 予に揖して言ひて曰く 赤壁之遊樂乎 赤壁の遊び樂しかりしかと 問其姓名 其の姓名を問へど 俯而不答 俯して答へず すぐに客は去って、自分も眠りについた、すると一道士が夢に現れ、羽衣をひらめかし、臨皋亭に立ち寄り、自分に揖してあいさつしながらいった、赤壁の遊び樂しかりしかと、その名を聞いても、うつむいたまま答えない 嗚呼噫喜 嗚呼(ああ)噫噫喜(ああ) 我知之矣 我之を知れり 昔之夜 昔の夜 飛鳴而過我者 飛鳴して我を過ぎりし者は 非子也邪 子にあらずやに 道士顧笑 道士顧みて笑ふ 予亦驚寤 予も亦驚いて寤む 開戸視之 戸を開いて之を視れども 不見其處 其の處を見ず ああ、思い出したぞ、昔の夜に、泣き叫びながら我が家を飛び過ぎたものは、あなたではありませんでしたか、その時導士は振り返って笑った、自分もまた驚いて目が覚めた、戸を開いて行方を追ったが、どこにも姿は見えなかった |
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