漢詩と中国文化
HOMEブログ本館東京を描く水彩画陶淵明英文学仏文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBSS

金錯刀行:陸游を読む


嘉州在任中に詠んだ詩のひとつに「金錯刀行」がある。錯刀とは象嵌をあしらった刀の意であるから、この刀には黄金の象嵌があしらわれていたのであろう。これは、その刀を振り回しながら歌ったものと思われる。「行」は楽府のひとつで、音楽に合わせて歌うものだ。


金錯刀行(壺齋散人注)

  黃金錯刀白玉裝   黃金の錯刀 白玉の裝ひ
  夜穿窗扉出光芒   夜 窗扉を穿って 光芒を出だす
  丈夫五十功未立   丈夫 五十にして功未だ立たず
  提刀獨立顧八荒   刀を提げて 獨立し 八荒を顧る
  京華結交盡奇士   京華 交を結びしは盡く奇士
  意氣相期共生死   意氣 相ひ期す 生死を共にせんと
  千年史冊恥無名   千年 史冊 無名を恥ず
  一片丹心報天子   一片の丹心 天子に報ず
  爾來從軍天漢濱   爾來 從軍す 天漢の濱
  南山曉雪玉嶙峋   南山の曉雪 玉のごとく嶙峋
  嗚呼楚雖三戸能亡秦 嗚呼 楚は三戸と雖も能く秦を亡す
  豈有堂堂中國空無人 豈に堂堂の中國にして空しく人無きこと有らんや

黄金の錯刀は白玉の模様がついている、夜窓を貫いて光芒を放つ、自分は五十にもなっていまだ功績が無く、刀をひっさげ一人空しくあたりを見回すばかりだ(錯刀:象嵌を施した刀、八荒:周囲のはるか彼方)

都で交わりを結んだのは皆奇士だった、意気揚々と生死を共にせんと誓い合ったものだ、ところが古い書物に名を残すこともならず、この真心を天子に捧げるばかりだ(史冊:歴史の書物、丹心:真心)

それ以来天の川のほとりに従軍しているが、終南山の雪は白く輝き、険しく聳えている、ああ、楚はたった三戸になっても秦を亡ぼしたというではないか、この堂々たる中国に立派な人がいないわけではあるまい(嶙峋:山岳の険しい様子)






HOME陸游次へ




 


作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2009-2013
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである