漢詩と中国文化
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野望:杜甫を読む



杜甫の七言律詩「野望」(壺齋散人注)

  西山白雪三城戍  西山の白雪三城の戍り
  南浦清江萬裡橋  南浦清江の萬裡橋
  海内風塵諸弟隔  海内の風塵に諸弟隔たり
  天涯涕涙一身遙  天涯涕涙一身遙かなり
  惟將遲暮供多病  惟だ遲暮を將て多病に供し 
  未有涓埃答聖朝  未だ涓埃の聖朝に答ふる有らず
  跨馬出郊時極目  馬に跨がり郊を出で時に目を極めれば
  不堪人事日蕭條  堪へず人事の日々に蕭條たるに

雪をいただいた山を西に望みながら三城が守りを固めている、ここは成都のうち南浦清江の萬裡橋のあたり、天下の風塵に弟たちと離れ離れになり、天蓋孤独の身に涙するばかり

春の温暖な天気に骨を休めるこの身には、天子の恩寵にこたえるすべもない、馬にまたがって郊外に出、視線を極めれば、厳しそうな民情に心が痛むのを感じる


野望とは野原の眺めのことをいう。その眺めの中にふと、自分自身のまぼろしがちらちらと見え隠れする。その自分とは何者なのか。老いたる杜甫は自問せずにはいられない。






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