漢詩と中国文化
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江村:杜甫を読む



杜甫の七言律詩「江村」(壺齋散人注)

  清江一曲抱村流  清江一曲村を抱いて流れ
  長夏江村事事幽  長夏江村事事に幽かなり
  自去自來梁上燕  自ら去り自ら來る梁上の燕
  相親相近水中鴎  相ひ親しみ相ひ近づく水中の鴎
  老妻畫紙為棋局  老妻紙に畫きて棋局と為し
  稚子敲針作釣鉤  稚子針を敲いて釣鉤と作す
  多病所須惟藥物  多病須ふる所は惟れ藥物
  微躯此外更何求  微躯此の外に更に何をか求めん

清江が大きく曲がって村を抱くようにして流れる、夏の村はことごとく幽玄な趣に満ちている、梁の上にはツバメが行ったりきたりし、水中では鴎が互いに行き来している

老妻は紙で将棋の真似をし、子どもは針を細工して釣り針を作っている、多病の身には薬草を取ればよい、この他に何がいるだろうか


老いて家族もまともに養えぬ自分を狂夫と自嘲した杜甫だが、成都での生活は苦しいことばかりではなかった。伸びやかな自然につつまれながら、心豊かな時間をもつこともできた。成都時代の杜甫は、かえってそんな伸びやかな気持ちを盛り込んだ詩を多く書いているのだ。

この詩もそんなのどかさが伝わってくる一首だ。杜甫は家族が不満もいわずに日々をそれなりに満足して過ごしている様子を、眼を細めて眺めやっているようだ。






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