漢詩と中国文化
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狂夫:杜甫を読む



杜甫の七言律詩「狂夫」(壺齋散人注)

  萬裡橋西一草堂  萬裡橋の西の一草堂
  百花潭水即淪浪  百花潭の水即ち淪浪
  風含翠篠娟娟淨  風を含める翠篠娟娟として淨き
  雨嚢紅苣冉冉香  雨に嚢(つつ)まる紅苣冉冉として香し
  厚祿故人書斷絶  厚祿の故人書斷絶す
  恆饑稚子色淒涼  恆饑の稚子色淒涼たり
  欲填溝壑唯疏放  溝壑に填ぜんと欲するも唯疏放
  自笑狂夫老更狂  自ら笑ふ狂夫の老いて更に狂するを

萬裡橋の西に我があばら家はある、百花潭の川水は青々としている、風に吹かれる緑の篠竹はなよなよとして清らかに、雨に打たれる紅の蓮の花は次々と花を開いて芳しい

高い報酬をもらっている知人からは音沙汰も絶え、いつも空腹の子どもたちは顔色が悪い、このまま野垂れ死にするかと思えばどっこい気ままに生きている、もともと狂夫である自分だが、老いてますます狂っていくかのようだ


草堂での貧しい暮らしぶりを自嘲気味にうたったもの。経済的に頼るべき友人たちとは音沙汰が絶え、子どもたちはいつも飢えている。のんびりと暮らしているように見えても、実は心配だらけの毎日なのだ。

そんな自分を杜甫は狂夫にたとえている。若い頃から狂っているといえば狂っていたが、老いてますます狂うのを、杜甫はなかば投げやりな気分で自嘲しているのだ。






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