漢詩と中国文化 |
HOME|ブログ本館|東京を描く|水彩画|陶淵明|英文学|仏文学|西洋哲学 | 万葉集|プロフィール|BSS |
鐵堂峽:杜甫を読む |
杜甫の五言古詩「鐵堂峽」(壺齋散人注) 山風吹遊子 山風 遊子を吹き 縹緲乘險絶 縹緲 險絶に乘ず 峽形藏堂隍 峽形 堂隍を藏し 壁色立精鐵 壁色 精鐵立つ 徑摩穹蒼蟠 徑は穹蒼を摩して蟠り 石與厚地裂 石は厚地と裂く 修纖無垠竹 修纖なり無垠の竹 嵌空太始雪 嵌空なり太始の雪 山風が旅人たる自分に吹きつけるなかを、はるか険しい道を登っていく、谷の形は堂の周囲の堀のように深くえぐられ、岸壁の色は鉄のように冷たい 山道は天空に接してわだかまり、石は大地との間に裂け目を作る、おびただしい竹が行く手に生え、谷底には根雪が積もっている 威遲哀壑底 威遲たり哀壑の底 徒旅慘不ス 徒旅慘としてスばず 水寒長冰 水寒くして長冰はり 我馬骨正折 我が馬骨正に折る 生涯抵弧矢 生涯弧矢に抵る 盜賊殊未滅 盜賊殊に未だ滅せず 飄蓬逾三年 飄蓬 三年を逾え 回首肝肺熱 首を回せば肝肺熱し その谷底の道はうねうねと曲がり、疲労が募るばかり、川の水は冷たく氷が張り、我が馬もついに骨を折るくらいに疲れ果てた、 わが生涯はちょうど戦乱の世に邂逅し、盗賊がいまだ跋扈してやまぬ、流浪の旅もはや三年を超える、頭を回らせば胸の中が熱くなるのだ 秦州から同谷への道のりは険しい山中を越さねばならぬ。鉄堂峽はそうした難所のひとつだったのだろう。厳しい寒さの中に震えながら、杜甫は家族を連れてそれを超えていかねばならぬ。 こんな目にあわねばならぬのも、世の中が乱れて、寄る辺のない身になってしまったからだ。家族を連れての流浪の旅ももう三年にもなる、果たして自分らはこの世で安住の地を見出すことができるのだろうか。杜甫の不安と憂いはますます深くなる。 |
前へ|HOME|杜甫|次へ |
作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2009-2011 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |