漢詩と中国文化
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月夜憶舍弟:杜甫を読む



杜甫の五言律詩「月夜に舍弟を憶ふ」(壺齋散人注)

  戍鼓斷人行  戍鼓人行斷え
  秋邊一雁聲  秋邊一雁の聲あり
  露從今夜白  露は今夜より白く
  月是故郷明  月は是れ故郷の明かり
  有弟皆分散  弟有れど皆分散し
  無家問死生  家の死生を問ふ無し
  寄書長不達  書を寄せど長く達せず
  況乃未休兵  況んや乃ち未だ兵を休めざるをや

戦争の響きで人の往来も絶え、秋の野辺には雁の鳴き声が聞こえるばかり、夜露がますます白くなり、月の明るさは故郷のそれと同じだ

弟があっても皆分散し、家がなくたったため消息を得る手がかりも無い、手紙を書いても何時までたっても返事がない、戦乱が収まらないではやむを得ぬことだ


戍鼓とは城郭を守る兵士が時を告げるために鳴らす太鼓のこと、杜甫はこの音を秦州の城内で毎日聞いていたのかもしれない、第三節にあるとおり時節は白露つまり秋の初めだ、

この詩の中で杜甫は、弟たちが散り散りばらばらになって、消息も得られないことを嘆いている、世の中はいまだ戦乱にあけくれ、ひとびとは家を失って逃げ惑うしかなかった

杜甫はこの秦州にも長く腰を落ち着けることができなかった、わずか二ヶ月でこの地に見切りをつけ、蜀へ向かって更に避難の旅を続けることになる。






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