漢詩と中国文化 |
HOME|ブログ本館|東京を描く|水彩画|陶淵明|英文学|仏文学|西洋哲学 | 万葉集|プロフィール|BSS |
夢遊天姥吟留別:李白 |
李白の雑言古詩「夢に天姥に遊ぶの吟 留別の詩」(壺齋散人注) 海客談瀛洲 海客 瀛洲を談ず 煙濤微茫信難求 煙濤 微茫にして信に求め難しと 越人語天姥 越人 天姥を語る 雲霓明滅或可睹 雲霓 明滅 或は睹(み)る可しと 天姥連天向天 天姥 天に連なり天に向ってたはる 勢拔五嶽掩赤城 勢は五嶽を拔き赤城を掩ふ 天台四萬八千丈 天台 四萬八千丈 對此欲倒東南傾 此に對すれば東南に倒れ傾かんと欲す 我欲因之夢呉越 我 之に因って呉越を夢みんと欲し 一夜飛度鏡湖月 一夜飛んで度る鏡湖の月 湖月照我影 湖月 我が影を照らし 送我至炎溪 我を送って炎溪(せんけい)に至らしむ 船乗りたちは仙山として名高い瀛洲について語る、もやの彼方に浮かんでいて行くのは難しいと、越の人たちは天姥の山について語る、雲霓の明滅する間に或いは見ることができるかもしれぬと 天姥は天に連なって聳えている、その勢いは五嶽に勝り、天台山にある赤城の山にもたれかかるほどだ、天台山は四萬八千丈もあるが、天姥山と向き合えばその力に引かれて倒れてしまうに違いない 自分は夢の中で天姥山に登り呉越を望もうとした、そこである夜鏡湖の月を渡って山の上へと飛翔した、湖月に我が影が重なり、ついに?溪へとたどり着いた 謝公宿處今尚在 謝公の宿處 今尚ほ在り 告蕩漾清猿啼 告 蕩漾して 清猿啼く 脚著謝公屐 脚には著く謝公の屐(げき) 身登青雲梯 身は登る青雲の梯 半壁見海日 半壁 海日を見 空中聞天鶏 空中 天鶏を聞く 千巖萬轉路不定 千巖萬轉して路定まらず 迷花倚石忽已暝 花に迷ひ石に倚れば忽ち已に暝し 熊咆龍吟殷巖泉 熊は咆え龍は吟じて 巖泉殷たり 慄深林兮驚層嶺 深林に慄(おそ)れて 層嶺に驚く 雲青青兮欲雨 雲は青青として 雨ふらんと欲し 水澹澹兮生煙 水は澹澹として 煙を生ず 列缺霹靂 列缺 霹靂 丘巒崩摧 丘巒 崩れ摧く 洞天石扇 洞天の石扇 ?然中開 ?(こつ)然として中開す 青冥浩蕩不見底 青冥浩蕩として底を見ず 日月照耀金銀台 日月照耀す金銀台 謝公の宿舎はまだそのままに残っていた、あたりには告がたゆたい、猿の鳴き声がする、自分は謝公の木靴をはいて、青雲の梯のように厳しい道を更に登っていった 絶壁からは海中に浮かんだ太陽が見渡され、空中には天の鶏が鳴いている、岸壁はうねりうねって山路は定まらず、花に迷い岩にもたれかかっている間に日は暮れてしまった 熊が吼え竜が叫んで巖泉に響き渡り、黒い雲が空を覆って雨が降りそうだ、大気は奔流のしぶきでもやがかっている、 稲妻がひらめき雷鳴が轟き、峰峰はくだけ、大きな洞穴の扉が開いて、すさまじい音を立てて開いた、空は暗く広々として底も見えず、日月が金銀の大脳柄で輝いていた 霓為衣兮風為馬 霓を衣と為し 風を馬と為し 雲之君兮紛紛而來下 雲の君 紛紛として來り下る 虎鼓瑟兮鸞回車 虎は瑟を鼓し 鸞は車を回らし 仙之人兮列如麻 仙の人 列ること麻の如し 忽魂悸以魄動 忽ち魂悸(おどろ)きて以て魄動き 恍驚起而長嗟 恍として驚き起きて長嗟す 惟覺時之枕席 惟だ覺めし時 これ枕席のみ 失向來之煙霞 向來の煙霞を失ふ 虹を衣となし風を馬となし、雲の君が次々と下りてくる、虎は瑟を鼓し鳳は車を引き、仙人が麻糸のように連なり下りてくる、 ふと気づけば動悸がして胸が苦しく、はっと驚いて起き上がり長いため息をついた、目が覚めるとそこにあるのは寝床だけ、さきほどの煙霞の光景はどこにもない 世間行樂亦如此 世間の行樂 亦此の如し 古來萬事東流水 古來萬事 東流の水 別君去兮何時還 君に別れて去れば何れの時にか還らん 且放白鹿青崖間 且(しばら)く白鹿を青崖の間に放ち 須行即騎訪名山 須らく行くべくんば即ち騎って名山を訪はん 安能摧眉折腰事權貴 安んぞ能く眉を摧き腰を折って權貴に事へ 使我不得開心顏 我をして心顏を開くを得ざらしめん 世の中の行樂とはどれもこの夢のようなものだ、古来万事は東流の水のようにむなしく流れ去る、君とここで別れてしまえば、いつまた会えるかもしれない しばらく白鹿を谷の間に放っておいて、時が来たらばそれに乗って名山を訪問しよう、こびへつらいながら権力ある人に仕え、のびのびと生きることができないのは、自分の本意ではない 胡蝶を歌った前の詩と同様、これも夢を歌ったものだ。天姥は越にある仙山。標高800メートルほどの山だそうだが、平地からそびえたち、急峻なことで知られる。詩人で仙人の評判が高かった謝霊運はこの山の麓に住んでいた。 |
前へ|HOME|李白|次へ |
作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2010 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |