漢詩と中国文化
HOMEブログ本館東京を描く水彩画陶淵明英文学仏文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBSS

楽府歌辞:戦城南



古楽府は民謡であるから、人民の生活を詠んだもの、歌ったものが多い。生活を歌い、戦争を呪い、男女の恋情を述べたものなど数多くあるうちにも、無名の庶民によるものに佳作が多い。

ここでは、戦場に倒れた兵士の嘆きを歌った歌「戦城南」を取り上げよう。


戦城南

  戰城南        城南に 戰ひ  
  死郭北        郭北に 死す   
  野死不葬烏可食  野に死して葬られずんば 烏食ふべし
  為我謂烏       我が為に烏に謂へ 
  且為客豪       且く客のために豪せよ
  野死諒不葬     野に死して諒に葬むられず
  腐肉安能去子逃  腐肉安んぞ能く子を去てて逃れんと

城南に戦って、郭北に死す、野に倒れて死ねば烏が我が肉を食うだろう、我がためにカラスにいってくれ、しばらく食うのをガマンせよと、(豪:豪気、任侠の意)

野垂れ死にして葬られることもないこの身、お前たちを逃れることなどできないのだからと
 
  水声激激        水声 激激たり
  蒲葦冥冥        蒲葦 冥冥たり
  梟騎戰鬥死     梟騎 戰鬥して死し 
  駑馬徘徊鳴     駑馬 徘徊して鳴く
  梁築室         梁は室を築くに
  何以南         何を以て南し
  何以北        何を以て北する
  禾黍不獲君何食  禾黍獲らずば君何をか食はん
  願為忠臣安可得  忠臣たらんことを願ふとも安んぞ得べけん

水声が激しく響く、蒲や葦が生い茂る、騎士が倒れて死せば、馬は主を失っていななく、

この男は腕のよい大工、立派な家を築く能があるのに、どうして南に北に戦い続けねばならぬのか、

実りはあっても収穫をするものがいなければ、君主といえども食を得ることはできぬ、忠臣として働き続けようとしても、収穫ができぬようでは長続きするものではない

  思子良臣       子の良臣たらんことを思ふ
  良臣誠可思     良臣誠に思ふべし 
  朝行出攻       朝に行き出でて攻め
  暮不夜歸       暮に夜歸らず

泰平の世にあって良臣してつとめたいものだ、それこそ望ましいことではあるが、いまはこうして、朝に戦闘に奮い立ち、夕べには帰らぬ人となる






HOME楽府歌辞次へ



 


作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2008
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである