漢詩と中国文化 |
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劍門:杜甫を読む |
杜甫の五言古詩「劍門」(壺齋散人注) 惟天有設險 惟れ天の險を設くる有り 劍門天下壯 劍門は天下の壯 連山抱西南 連山西南を抱へ 石角皆北向 石角皆北に向かふ 兩崖崇庸倚 兩崖崇庸倚り 刻畫城郭状 刻畫城郭の状あり 一夫怒臨關 一夫怒って關に臨めば 百萬未可傍 百萬も未だ傍ふ可からず 天は険しい地形を作られた、剣門は天下に名高い難所だ、連なる山々が西南を画し、尖った石の先はみな北の方角を向いている 両側には高い絶壁がせまり、そのさまは要塞のようだ、怒れる男がひとりで守れば、百万の兵でも近づくことはできぬ 珠玉走中原 珠玉中原に走り 岷峨氣淒愴 岷峨氣淒愴たり 三皇五帝前 三皇五帝の前 鶏犬各相放 鶏犬各々相放つ 後王尚柔遠 後王尚柔遠にして 職貢道已喪 職貢道已に喪はる 至今英雄人 今に至って英雄の人 高視見霸王 高視すれば霸王を見る 珠玉の宝がこの地から中原へ流出し、岷峨の偉容もいささか耀きを失った、三皇五帝の前の時代には、鶏犬が道に放たれて長閑だったものだ だがその後の王たちは意気地がなく、道徳も廃れてしまった、今では威張りたがる連中が、霸王のまねごとをしているにすぎない 井呑與割據 井呑と割據 極力不相讓 極力相讓らず 吾將罪真宰 吾將に真宰を罪せんとす 意欲産疊嶂 意は疊嶂を産(けず)らんと欲す 恐此複偶然 恐るらくは此れ複偶々然らんことを 臨風默惆悵 風に臨んで默って惆悵たり 井呑と割據と各々策を労し、互いに譲り合おうとしない、自分はだから天を罰し、この地から高い山々を削り取ってしまおうと思うのだ、だが実際にそうなったらどうすればいいか、風に望んで黙ったまま悲しい気持ちに陥るばかりだ 劍門は蜀の桟道とならんで、嘉陵江沿いにあるもうひとつの難所だ。攻めても攻められないほどの自然の要害ともなっている。ここを超えれば蜀の広大な台地が開けてくる。 杜甫はこの詩のなかでは、劍門をわたることの困難よりも、蜀の歴史に思いをいたし、諸侯があい対立して無益な争いをしてきたことの馬鹿馬鹿しさを批判している。 やっと蜀にたどり着けるという安堵感が、心の余裕をもたらしたのかもしれない。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2009-2011 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |