漢詩と中国文化
HOMEブログ本館東京を描く水彩画陶淵明英文学仏文学西洋哲学 | 万葉集プロフィールBSS

寓目:杜甫を読む



杜甫の七言律詩「寓目」(壺齋散人注)

  一縣蒲萄熟  一縣蒲萄熟し
  秋山苜蓿多  秋山苜蓿(もくしゅく)多し
  關雲常帶雨  關雲常に雨を帶ぶるも
  塞水不成河  塞水河を成さず
  羌女輕烽燧  羌女烽燧を輕んじ
  胡兒製駱駝  胡兒駱駝を製す
  自傷遲暮眼  自ら傷む遲暮の眼に
  喪亂飽經過  喪亂飽くまで經過するを

そこらじゅういったいに葡萄の実が熟し、秋の山には馬ごやしが生える、関所の空には常に雨雲が立ち込めるが、城塞の高台に降った雨は川とはならない

羌女は戦いの烽火を気にせず、胡兒はのんびりと駱駝を引いていく、こんなに年を老いた目に、戦いの止む気配が無いのを見るのはつらいことだ


秦州での生活は杜甫にとっては快適なものではなかった。わずか二ヶ月でここを離れ、蜀に移っていることからも、推測される。次第に憂いに沈んでいく杜甫であるが、折にふれて書いた詩の中には、そんな杜甫の気持ちが素直に現れた優れた詠懐の詩がある。

蒲萄も苜蓿もシルクロードを経て西域から伝わってきたものだ。そして町の中には羌女、胡兒の姿が目立つ。ここは唐の領土とはいえ、辺境にあって異民族と接しながら成り立っているのだ。杜甫にはそんなところが、この地になじめない理由になったのかもしれない。






前へHOME杜甫次へ




 


作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2009-2011
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである