漢詩と中国文化
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長恨歌(二):白楽天を読む


第二部は、安禄山の反乱に始まり、皇帝の軍隊が蜀へと逃亡するさまを描く。その逃避行の途中、馬嵬において兵士が反乱を起こし、楊貴妃を皇帝の目の前で殺してしまう

命からがら蜀へ逃げた皇帝は、愛する楊貴妃を失った悲しみにくれ、嘆いてばかりいる


長恨歌その二(壺齋散人注)

  漁陽瞽鼓動地來  漁陽の瞽鼓地を動かして來り
  驚破霓裳羽衣曲  驚破す霓裳羽衣の曲
  九重城闕煙塵生  九重の城闕煙塵生じ
  千乘萬騎西南行  千乘萬騎西南に行く
  翠華搖搖行復止  翠華搖搖として行きては復た止まり
  西出都門百餘裏  西のかた都門を出づること百餘裏
  六軍不發無奈何  六軍發せず 奈何ともする無く
  宛轉蛾眉馬前死  宛轉たる蛾眉 馬前に死す
  花鈿委地無人收  花鈿 地に委(す)てられて人の收むる無し
  翠翹金雀玉搔頭  翠翹 金雀 玉搔頭
  君王掩面救不得  君王面を掩ひて救ひ得ず
  回頭血淚相和流  頭を回らせば血淚相ひ和して流る

漁陽から安禄山の軍が太鼓を打ち鳴らしながら地を動かしてせまり、人々を驚かせて霓裳羽衣の曲どころではなくなった、九重に守られた城郭には煙塵は生じ、皇帝の軍は西南を目指して逃れる(漁陽:安禄山が兵をあげた拠点)

天子の旗はゆらめきつつ進み、西の方城門を出ること百里にして、皇軍は進まずどしようもないままに、美しい人(楊貴妃)は(皇帝の)馬前で死んでしまった(翠華:天子の旗、宛轉:美しいさま、蛾眉:美女の形容)

花のかんざしは地に捨てられたまま、翠翹・金雀・玉搔頭も同じだ、君王は顔を覆ったまま救うこともできず、頭を巡らせばそこには血の涙が流れるのが見える(花鈿:花のかんざし、翠翹:かわせみの羽の髪飾り、金雀:クジャクの髪飾り、玉搔頭:玉の笄)

  黃埃散漫風蕭索  黃埃散漫 風蕭索
  雪棧縈紆登劍閣  雪棧縈紆 劍閣に登る
  峨嵋山下少人行  峨嵋山下 人の行くこと少なく
  旌旗無光日色薄  旌旗光無く 日色薄し
  蜀江水碧蜀山青  蜀江水碧にして 蜀山青く
  聖主朝朝暮暮情  聖主 朝朝暮暮の情
  行宮見月傷心色  行宮に月を見れば傷心の色
  夜雨聞鈴腸斷聲  夜雨に鈴を聞けば腸斷の聲

黃埃を巻き上げて風が寂しげに吹く、雲の中を経巡る架け橋を登って剣閣まで行く、峨嵋山の麓には人影も少なく、旌旗には光無く日色も薄い(雪棧:雲の中にあるような棧、縈紆:曲がりくねっているさま、劍閣:蜀に入る手前にある難所、峨嵋:蜀にある山の名)

蜀の川の流れは緑にして蜀の山は青い、皇帝は朝な夕なに楊貴妃をしのぶ、行宮に月を見ては悲しみ思いにくれる






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